menu botton

展覧会

平山郁夫 世界遺産シリーズⅢ アンコール遺跡を描く
終了

2015年01月20日(火)~2015年03月29日(日)

「文化財赤十字構想とアンコール遺跡」

 

2014年度平山郁夫館第3弾企画として、「平山郁夫 世界遺産シリーズⅢ アンコール遺跡を描く」を開催します。

2014年度の平山郁夫館のテーマは「世界遺産」。第3弾となる今回は、平山郁夫氏が1993年にアンコール遺跡救済のために各地で開催した展覧会の出品作品を中心に展観します。

 

シルクロードを生涯のテーマとして描き続けた平山氏は、被爆体験による原爆の後遺症と戦いながら、シルクロードの旅路の原点となる一つの作品を発表します。1959年の第44回再興院展に出品した《仏教伝来》で、玄奘三蔵の求法の旅に着想を得た平山氏の代表作であり、画家としての一大転機となった作品です。この作品を発表して以降、仏教への関心を深め、玄奘三蔵の足跡を訪ねて仏教伝来の道であるシルクロードを歩きだし、50年以上にわたる創作活動において、実に150回以上に及ぶシルクロード取材を敢行します。

 

平山氏は、仏教伝来やシルクロードを主要テーマとして平和を希求する創作活動を行う中で、現地取材の際に貴重な文化財が、自然崩壊だけでなく、戦争や盗掘といった人為的な破壊によって失われつつある状況を目の当たりにし、国際赤十字活動のような国や民族、宗教を超えた国際的な協力のもとで、文化財の保護活動ができないものか模索します。その後、平山氏の文化財保護に関わる活動は「文化財赤十字構想」として実を結び、画業と同様に自身のライフワークとなり、人類共通の遺産とも言うべき文化財を守ることで、国際的な平和貢献を実現していきます。

 

そして、平山氏が提唱した「文化財赤十字構想」は、アジアを中心に拡大し、本企画で紹介するカンボジアのアンコール遺跡群をはじめ、敦煌莫高窟や南京城壁の保存・修復活動、更には高句麗古墳群やタリバンによって破壊されたバーミアン石窟の世界遺産登録へ向けた働きかけなど、その活動は世界的にも高い評価を得ています。

 

今回、平山氏の作品により紹介するアンコール遺跡は、カンボジアの北西部にあるクメール王朝時代(9〜15世紀)の歴史的な建造物で、城塞都市アンコール・トムをはじめ、世界最大規模の石造寺院アンコール・ワットを中心として、大小様々な遺跡によって構成されています。この遺跡群は、1992年にユネスコの世界文化遺産に登録されますが、1970年代から続いた内戦により荒廃が進むとともに、遺跡を覆い尽くす樹木により貴重な文化財が崩壊の危機に瀕していることから、2004年まで危機遺産にも登録されていました。現在は、ユネスコをはじめとする国際機関の協力を得て、日本、フランス、アメリカなど世界各国から多くの救済チームが保存修復活動を続けています。

 

当時ユネスコの親善大使を務めていた平山氏も、1991年に設立されたアンコール遺跡救済委員会に参加し、1993年にカンボジアのシアヌーク殿下(当時)の要請を受けて、ユネスコとともに保存修復に乗り出すことを発表します。平山氏は、1991年に第1回アンコール遺跡学術調査団の団長としてカンボジアを訪問し、遺跡の調査や取材の際に多くのスケッチを描き遺跡の現状を記録します。そして、その時の取材をもとに描いたアンコール遺跡関連の作品展を、日本国内をはじめヨーロッパやカンボジアでも開催することで、世界に対して保存修復の必要性を広く訴えかける救済キャンペーンを実施します。

 

また平山氏は、最終的に現地の人々の手によって遺跡の保存修復がなされることで、自国の文化や歴史に対して誇りを持ってもらうことこそ、「文化財赤十字構想」の精神であるという考えから、カンボジア人の教育環境の整備や文化財保存修復専門家育成事業の支援も行います。

 

一人の画家が平和を願う想いから生まれた「文化財赤十字構想」は、多くの人たちの共感を得て、現在もその精神は継承され、「文化財保護・芸術研究助成財団」(1988年設立)や「文化遺産国際協力コンソーシアム」(2006年設立)などの平山氏が先頭に立って進めてきた国際的な取り組みは、今なお続けられています。