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展覧会

佐藤忠良 となりびと
終了

2015年06月19日(金)~2015年11月23日(月)

戦後日本の具象彫刻を牽引してきた佐藤忠良氏の70年に亘る創作活動で、常にモチーフとして登場したのは、身近に関わりがあった人物達でした。この場合の身近というのは、自身の子どもや孫などの肉親だけでなく、その人の魅力的な内面性に、佐藤氏が親近感を覚えた人物も含みます。人の中に息づく素朴で暖かい人間性を持つ人たちと関わっていきたいと考えた佐藤氏は、そのような人々のことを『となりびと』と呼び、生涯においてモデルとしたのです。

下の作品は《鋳物職》という作品ですが、この作品のモデルは佐藤氏の作品を約40年に亘り鋳造しブロンズに仕上げた職人です。鋳造の仕事は3K職業と言われる「きつい」「汚い」「危険」が伴う仕事だと佐藤氏は言います。佐藤氏の彫刻は粘土で作品を作り、石膏で原型をとった後、それをもとに鋳造してブロンズ作品を仕上げますが、この鋳造工程はとても過酷なものです。鋳型に流し込む金属を溶かすために、窯の火を入れ続けねばならず、その作業は徹夜を伴います。また溶かした金属が体にかからないように全身に防護服を着用し作業するので、夏場は更に厳しい環境下での作業になります。そういった過酷な状況の中、職人の熟練の技によってブロンズに命が吹き込まれ、作品ができ上がるのです。佐藤氏はこの作品の表情に職人の姿を表現したかったと述べていますが、顔のゆがみや皺、ギュッと喰いしばった口、張った頬からは、一つ一つ真面目に作品に向かい合ってきた職人の魂が伝わってくるようです。

 

《鋳物職》 ブロンズ 1992年