佐藤忠良 まとう彫刻
2024年12月19日(木)~2025年02月02日(日)
1950年代後半、空間を意識したイタリア近代彫刻に触発された佐藤忠良は、彫刻の量感や空間への関心を深めます。佐藤の人物像に空間的な広がりをもたらした要素の一つが、モデルが身に纏うコスチュームでした。帽子や衣服を取り入れることによって身体の輪郭にバリエーションが生まれ、陰影も深まり表現の幅が広がりました。
佐藤にとってコスチュームは、創作のインスピレーション源でもありました。1970年から弟子の彫刻家・笹戸千津子が助手としてアトリエに通い始めると、笹戸が身に着けていた当時流行のジーンズやブラウスの形状に惹かれ、彼女をモデルに多くの着衣したブロンズ像を制作します。なかでも《帽子・夏》(1972年)は、つば広の帽子を効果的に取り入れ、緊張感の中にも清楚な叙情感のある作品に仕上げたことが高く評価され、佐藤芸術の代表作となりました。これを契機に、佐藤はコスチュームを巧みに活かして人体の美しい均衡を表現した人物像を確立していきますが、衣服を纏った彫刻の難しさについて次のように語っています。
作品にこうした小道具めいたものをあしらうと、ときに風俗彫刻に陥ることがあるので、その辺のスレスレの闘いが、そのたびごとに私の大きな課題になった。
(『彫刻のある街づくり』春日部市、1990年)
流行のコスチュームは時に風俗的な印象を与えます。しかし、全体の均衡を綿密に考え抜いた佐藤の彫刻は、時代性を超えた品格を備えています。本展では着衣した像に焦点を当て、帽子やマント、ジーンズなどコスチューム毎に作品を展観します。様々な角度からご鑑賞いただき、彫刻の三次元的な広がりと、作家が試行錯誤を重ねた形態のバランスを感じ取っていただければ幸いです。