キース・へリングの真意とは?-「アポカリプス」シリーズ-
厳しかった夏の日差しも、秋風とともに和らいできました。
現在開催中の「キース・へリング」展は、おかげさまで沢山のお客様にお越し頂いています。そして!会期最終日が今月9月23日(水)に迫っています。
アンディ・ウォーホルとコラボレーションした「アンディ・マウス」や詩人ウィリアム・バロウズとの共作「アポカリプス」など貴重な作品が勢揃いしていますので、まだご覧になっていない方も是非ご来館ください。
そして今日は、キース・へリングに興味をお持ちの皆様に彼の作品背景についてご紹介させて頂きたいと思います。シンプルなフォルムと線で構成されたへリングの絵は親しみやすく、老若男女問わず世界中で愛されています。しかし、その作品の奥深くには現代社会の問題や人間の持つ狂気などを表したものがあります。
例えばコラージュとドローイングで構成されている「アポカリプス」シリーズのうち1点 '無題' は、まるで雲や怪物のような物体から真っ赤な火が吐き出されている様子が画面中央に描かれています。その両隣には、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「モナ・リザ」の縮小プリント(複写)が2枚並べて貼り付けてあります。「モナ・リザ」の目には全て黒の×が付けられていて、そのまま真下に目線を移すと、無数の人々が集まって騒いでいる様子が描かれているのが分かります。
いったいどのようなメッセージが込められているのでしょうか?
実は、1979年3月にアメリカ合衆国のスリーマイル島原子力発電所で重大な原子力事故が発生し、当時多くのアメリカ人は反核運動を起こしました。 それ以降、へリングは80年代を通して原子炉をモチーフにした絵を沢山描いています。[1] 得たいの知れない怪物のようなものは、原子炉なのでしょう。また美術史上最高の傑作とうたわれている「モナ・リザ」をコラージュして、その上に×印を描いたのは、もしかしたら権威の象徴(国、原子炉、名画)に対するへリングの反骨精神の表れかもしれません。
このように当時の社会状況と重ね合わせて読み解くことで、作品世界により深く入り込むことが出来ます。同時に、いま私たちが生きている現代社会を見つめなおすきっかけが潜んでいることも感じ取れるのではないでしょうか。
どうぞ皆様にお越し頂いて、キース・へリング独自の世界観を直接体感して頂けましたら嬉しく思います。
[1] Natalie E. Phillips, The Radiant (Christ) Child -Keith Haring and the Jesus Movement-,Chicago Journal (2007)<http://www.jstor.org/stable/10.1086/526480>.