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展覧会

佐藤忠良 彫刻家のスケッチブック
終了

2019年07月10日(水)~2019年12月01日(日)

皆さんは彫刻家に必要なものは何だと思いますか。粘土を芯棒にモデリング(肉付け)していく作業でしょうか。確かにそれは佐藤忠良が作る塑像に欠かせない作業ですが、そこにいくまでの過程において、デッサンこそが真に必要だと佐藤は考えました。彫刻では多くを語るよりも深くを語ることが重要です。そのためには絶えずデッサンを行い、対象となるものを深く観察する必要があります。それは、単に数をこなせばいいというわけではありません。そこには〈眼と心の技術〉の訓練が詰め込まれていなければ意味を成さないと佐藤は言います。

さて、〈眼と心の技術〉とはどのようなものでしょうか。少しイメージしてみましょう。例えば花をデッサンするとき、同じ種の花が目の前に2輪あったとします。それらは蕾の数が違っていたり、葉が虫食いされていたりと、全く同じでないはずです。静物にいたっても同じです。キズがあったり、汚れていたりするはずです。どんなものであっても、細部に何らかの現象の影響を受けながらも存在し続ける姿勢を見出すことができます。それらをよく観察し、自身の中で解体、整理し、また再構成させる、という捉え方がデッサンの中になければなりません。この作業は、彫刻を作るにおいて欠かすことのできないものであり、デッサンすることはそのような捉え方をするための訓練ということなのです。

佐藤は生涯においてデッサンを欠かさず続けました。庭の草花、散歩道の木々、すべてのものがモチーフになりました。佐藤のデッサンが人々を引きつける魅力があるのは、きっと描かれる対象の本質がしっかりと作家の中で〈眼と心の技術〉をもってして、考えられているからなのではないでしょうか。まるで佐藤の眼を通して対象を見ているような心持ちで、素描作品をご鑑賞いただければ幸いです。