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展覧会

吉左衞門X nendo×十五代吉左衞門・樂直入
開催中

2022年09月16日(金)~2023年03月11日(土)

樂吉左衞門館では、開館以来「吉左衞門X」というシリーズで、十五代樂吉左衞門作品と何か(思惟を共有する作家であったり、事象であったり)とのコラボレーション展を開催してきました。

13回目となる今回は、佐藤オオキ*中心に設立されたデザインオフィスnendo(ネンド)とのコラボレーション展を開催いたします。
nendoは、東京とミラノを拠点に幅広くデザインを手掛け国内外で高い評価を受けています。

本展は、佐藤オオキ氏が樂茶碗のもつ特徴・内部空間・部分(テクスチャ)・時間軸の観点から、直入が制作した樂茶碗にアプローチし、ビジュアルだけでなく、その思想までも形にする斬新かつ挑戦的な取り組みです。2者のものづくりに対する想いが共鳴して生まれた作品の数々からは、デザインの本質が見えてきます。


nendo 佐藤オオキ
1977年カナダ生まれ。2002年早稲田大学大学院建築学専攻修了、同年、デザインオフィスnendo設立。Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100」に選出された他、世界的なデザイン賞の数々を受賞。2015年、ミラノ万博「日本館」内ギャラリーの空間プロデュース及び日本各地の伝統工芸品とのコラボレーション作品をデザイン。2021年、東京オリンピック・パラリンピックの聖火台をデザイン。パリ五輪開催の2024年へ向けてフランス高速鉄道TGV新型車両のデザインに取り組むほか、2025年開催予定の大阪・関西万博日本政府館総合プロデューサー/総合デザイナーを務める。

nendo オフィシャルサイト

佐藤オオキ氏と樂直入氏の対談映像をご視聴いただけます




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宙で回転することで、時間の流れを表現する茶碗











樂焼は土の表情を最大限に生かすべく、轆轤(ろくろ)ではなく、

自らの手でかたち作る「手捏ね」によって成形されます。

それ故に、茶碗の形状が綺麗な回転体ではなく、不均一なフォルムに仕上がります。

この特徴を最大限に生かした展示方法を模索していく中で、茶碗を宙に浮遊させ、回転させることを考えました。


そこで、電磁石と永久磁石を複数組み合わせ、それぞれの「反発する力」と「引き合う力」のバランスによって、まるでリニアモーターカーのように浮上させる仕組みを採用しました。


茶碗の高台を厚めに仕上げてもらうことで底部に磁石を仕込むことができ、

電気浮遊装置を組み込んだ展示台から7mm浮かせる状態が可能となりました。

さらに、展示台から微弱な風を送り続けることで茶碗がゆっくりと回転します。


鑑賞者が展示室に入ると、まずは背面が面発光していることで茶碗が逆光の状態となり、シルエットの変化が強調されます。さらに奥に歩んで横から茶碗を眺めると、今度は順光のライティングとなることで釉薬や貫入、そして凹凸の変化などを感じ取ることができます。

それは「手の痕跡」という、ひとつの茶碗の中を流れる「時間」を表出させたような展示方法となりました。



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茶碗の地肌が、日常空間を侵食するインスタレーション










展示台の上ではなく、茶碗が「日常性が感じられる空間」に溶け込む見せ方の可能性を

樂直入氏に問われ、着想したインスタレーションです。

まずは、本棚や引出し、扉、窓といった身近な家具や建具をセレクトし、

さらに食器やピクチャーフレーム、瓶、缶、本、置き時計などの生活雑貨を選び出しました。

それらの形状を抽象化し、仕上げもマットブラックに統一にすることで、

生々しすぎる日常を想起させないようにしています。


これらのオブジェを再構成して作った「最小単位のインテリア空間」に樂茶碗を配することにしました。


より茶碗を空間に馴染ませたいとの思いから、茶碗の表面テクスチャーを3Dスキャンし、

それを部分的にオブジェに「移植」しました。

テクスチャーは0.253倍の範囲で縮小拡大させることで、

うねる水面や荒々しい山肌、はたまた樹皮のようにも見えるなど、

茶碗に内在している多様な表情を引き出すことが可能となりました。


最終的に5つの小さな空間が作られ、

それぞれに使用されるテクスチャーは、そこに置かれた茶碗から抽出されたものとしました。

それはまるで苔や樹木の根が周囲の環境を覆い尽くすかのごとく、

茶碗から滲み出た地肌が空間に纏わりつくような表現となりました。



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茶碗の内部の空洞を物質化したオブジェ










樂家初代長次郎が手掛けた「長次郎茶碗」などに代表される、樂焼の大きな特色のひとつが茶碗の「内部」と言われています。「樂茶碗の半筒形の姿は、特に口縁を内にわずかに抱え込むことで、見込は内包的な深みをもった空間となる。その深々とした見込は、単なる寸法を超えて精神的な宇宙を抱えることになる。」

(引用:『[定本]樂歴代 宗慶・尼焼・光悦・道樂・一元を含む』)と樂直入は言います。


ただし、この「内包的な空間」を通常の展示された状態で感じ取ることは難しいことです。

そこで、茶碗の内部空間を3Dスキャンしたデータをもとに透明アクリルを切削加工することで、本来は「空洞」である存在を、ひとつの「塊」として再現しました。


オリジナルの茶碗と、茶碗の内部が象られたものがふたつ並ぶことで、まるでレントゲン写真のように、普段は知覚することができない内と外の関係性が浮かび上がります。

茶碗の内部を水で満たして、それをそのまま取り出したかのような見え方から「満碗(みちわん)」と名付けました。



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色素の分離現象によって、内在する個性を現した茶碗










軟質かつ多孔質な土質と肉厚な成形が樂茶碗の特徴であることから着想した「潤碗(じゅんわん)」は、色素を吸い込ませることで茶碗が自ら模様を描くコレクション。このコンセプトをさらに発展させ、水性の万年筆用インクと水を茶碗へ染み込ませることにしました。

まずは茶碗の底面にインクの線を描きます。次に茶碗を水を含んだフェルトの上に乗せると、下のほうに付着している色が徐々に上へと移動し、同時に複数の色に分解されていきます。これは「クロマトグラフィー」と呼ばれる分離・分析の手法であり、普段は「単色」だと思われているインクが、実は複数の色素成分を混ぜ合わせて作られていることがわかります。


色素分離のプロセスとして、まずは茶碗の内部で水が一気に吸い上げられ、次に水が色素を引き上げています。このとき、水との相性が良く、長時間水に溶けていることができる色素が水とともに上部まで引き上げられ、一方で、茶碗との相性が良い色素は早い段階で茶碗に定着することから、下のほうに留まります。この「水との相性」と「茶碗との相性」の違いによって、色素が分離する仕掛けとなります。


その後、乾燥させることで、茶碗の内部に隠れていた色素が表面に浮かび上がりますが、表面の細かい凸部に色が集まることで、さらなる色のムラが発生します。全8碗からなるコレクションのうち4碗は、表面のキメが細かいことから上下方向に大きく分離しています。残り4碗は荒々しい表面をしていることから色が下のほうに留まりつつ、まだら状の表現となっています。


このように、「色素」と「水」と「茶碗」という三者の間に起きる様々な作用によって、独特の表情が創出されました。そして、土の種類や焼き加減、厚みのバラつき、微細な凹凸など、茶碗自身に内在している個性が、着色によって強調される結果となりました。



junwan -redox-

金属成分を浸み込ませてから焼き上げた茶碗












nendoが京都で開催した展覧会「NENDO SEES KYOTO」でお披露目した「潤碗(じゅんわん)」と名付けられたコレクション。
軟質で多孔質な土質と、肉厚に成形された樂茶碗の特徴を生かし、素地に液体を吸い込ませることにより、茶碗が自ら模様を描くという作品のコンセプトを発展させ、金属イオン水溶液の含浸と酸化還元反応(=redox)の後、本焼きをして仕上げることにしました。

使用した金属イオン水溶液は「鉄」「銅」「銀」の3種類。茶碗を横に寝かせ、片方から金属イオン水溶液を、もう片方からビタミンCを染み込ませました。両者が茶碗の中央付近でぶつかると、ビタミンCの電子が金属イオンへと移行する酸化還元反応が起きます。この化学反応によって帯状に色が変化。乾燥後、透明釉がかけられ、酸化焼成が施されました。ビタミンCは燃えて揮発する一方で、金属イオンや金属微粒子は残り、土や釉薬の成分と結びついて定着、発色します。


一般的な焼き物において、酸化鉄や酸化銅などを釉薬と混ぜ合わせることで色を「表面に乗せる」ことはありますが、このコレクションは水に溶けた状態の金属成分を茶碗の「内部に含浸させる」という新たな手法を試みました。同時に、茶碗の中で金属成分とビタミンCがせめぎ合った名残りが、色や模様の揺らぎとして現れるような表現となりました。


photo: Akihiro Yoshida